肝臓友の会

36「肝臓病と消化管出血」

肝臓の病気として多いのがB型/C型肝炎ウイルスに感染して発症する慢性肝炎や肝硬変です。 他にアルコールや最近では脂肪肝から肝硬変になるような病態も存在することがわかってきました。肝硬変になると出血の危険性がある消化管病変として最も多いのが食道胃静脈瘤です。特に食道静脈瘤は肝硬変症の5~12%/年の頻度で発生してくるとの報告があります。静脈瘤の怖いところは唯一の症状が吐血(タール便)である点です。吐き気や腹痛などの症状がないため静脈瘤の有無は内視鏡による確認が必要です。ただし、静脈瘤が存在するからといってすぐに治療しないといけないというわけではありません。静脈瘤のサイズが大きく静脈瘤上に赤みがある(発赤所見といいます)場合は出血する危険性が高いため予防的治療が必要になってきます。治療には内視鏡を用いた静脈瘤を小さい輪ゴムでいくつもしばる治療(結紮術)や静脈瘤内に薬剤を注入して静脈瘤を硬めて消失させる治療(硬化療法)などがあります。静脈瘤は食道・胃以外にもまれに十二指腸や直腸にも発生する(異所性静脈瘤と呼びます)ことがあり注意が必要です。

肝硬変症では健康な方と比べて胃十二指腸潰瘍の合併が高く10~20%といわれています。 胃十二指腸潰瘍の原因の一つとしてヘリコバクター・ピロリ菌という細菌が注目されています。ピロリ菌は年齢が高くなるにつれて感染率が高くなります。ピロリ菌に感染しているかどうかは内視鏡検査が必要な検査(組織検査、培養検査など)や内視鏡検査を必要としない検査(呼気検査、血液検査、便検査)があります。もしピロリ菌に感染していたら除菌治療を推奨します。除菌治療は消化性潰瘍治療薬のプロトンポンプ阻害剤と抗生物質2剤を1週間内服します。最近この除菌治療(一次除菌)の除菌率は約70%と低下してきており抗生物質の1種類を変更した二次除菌までが保険適応となりました。二次除菌の除菌率は95%と高く有効な治療法です。

最近、内視鏡の分野でトピックスなのは暗黒大陸といわれていた小腸の検査が可能になったことです。カプセル内視鏡やダブルバルーン内視鏡検査など原因不明の出血源精査にとても有効です。

最後に日常生活上の注意点として腹圧がかからないように重い荷物をかかえたり便秘にならないように注意してください。また暴飲暴食をせず胃薬をきちんと服用してください。肝臓が悪い方は1年ごとに内視鏡検査を受けることをおすすめします。

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    食道静脈瘤

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    胃静脈瘤

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    ヘリコバクター・ピロリ菌と胃潰瘍

2011/06/11 肝臓友の会 講演 講演要約者:消化器内科 熊本正史

消化器内科 熊本 正史


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